牛の話題②

あらあら まただいぶん更新が遅れましたが、元気に雪道歩行をしているYareyareです。なんと!この冬はまだ一回もコケてません。

 

えっと、前回→ 久しぶりに牛の話題 - やれやれ獣医の留学日記 (hatenablog.com) は子牛と薬剤耐性菌についてちょこっとご紹介しましたが、今回は引き続き抗生剤使用について少し述べます。

 

薬剤耐性はよく、抗生剤の不適切な使用と関連付けられます。特に産業動物の抗生剤使用量が人間に比べて多いことや、人間が動物から耐性菌をもらってしまう可能性があることなどから、「抗生剤はちゃんと適切に使うてるんかー?!オイ」という疑問の声によく晒されます。あわわ。

いや、冗談じゃなく、この話題になると獣医も農家も神妙な面持ちになります。それだけ重要視されているトピックなのです。

 

じゃあカナダの乳用子牛ではどういったときに抗生剤が使われているの?という目的のため、国内の酪農家さんたちにアンケートを取りました。

 

そうです、農家さんに聞きました。

州の獣医師法によると、基本的に治療は獣医師が行なうと書かれてありますが、農家さん自身が治療することも認められているようです。

https://www.ontario.ca/laws/statute/90v03

私の感覚ですが簡単な治療は農家さんがして、効果がなかったときや高い技術が必要なときに獣医がやってくる感じです。呼ばれる頻度は一農家あたり月に1-2回程度でしょうか。知らんけど

 

そのためか、獣医も治療より繁殖業務のほうが主になることもあり、当直はあるにせよ、他の仕事と掛け持ちしている臨床医もいます。例えば臨床獣医兼政府機関に在籍していたり、臨床獣医兼大学教員兼コンサル会社に勤務など、日本ではちょっと考えられないような働き方をしている人もチラホラいます。す・す・・睡眠時間は取れているのかしら。

 

あ、話が逸れた。

 

農家さんが治療するといっても、事前に獣医と治療基準を打ち合わせているところがほとんどです。ま、抗生剤は獣医師の処方箋が無いと手に入らないし。

治療するときの判断基準はさまざまですが、巷では臨床症状をスコア化する方法をよく耳にします。Wisconsin-Madison大のやり方が有名ですが、これの変法や、実用性を加味したものなど、いろいろな基準が論文で取り沙汰されています*1*2*3。ただこういったものがどれくらい浸透していて、農家さんの意思決定に影響を与えているのかはよくわかっていません。あ、ちなみにとあるレビューによると、肺炎診断時の聴診の感度は高くなく、ばらつきがあるとのことでした。*4

 

だいぶん端折りますが、治療基準がきちんと可視化されている農家さんのほうが、全身症状などの有無を判断して抗生剤を使っている、という結果でした。「(治療するかどうかは)頭の中で判断してるしぃぃ」ではなく、文書化して置いておいたほうがよさそうです。

まあ、研究の内容はまだまだ改善点がありますがね。ううう・・・

*1:Love, W. J., Lehenbauer, T. W., Kass, P. H., Van Eenennaam, A. L., & Aly, S. S. (2014). Development of a novel clinical scoring system for on-farm diagnosis of bovine respiratory disease in pre-weaned dairy calves. PeerJ, 2, e238.Write footnote here

*2:McGuirk, S. M., & Peek, S. F. (2014). Timely diagnosis of dairy calf respiratory disease using a standardized scoring system. Animal Health Research Reviews, 15(2), 145-147.

*3:Gomez, D. E., Arroyo, L. G., Poljak, Z., Viel, L., & Weese, J. S. (2017). Implementation of an algorithm for selection of antimicrobial therapy for diarrhoeic calves: Impact on antimicrobial treatment rates, health and faecal microbiota. The Veterinary Journal, 226, 15-25.

*4:Buczinski, S., & Pardon, B. (2020). Bovine respiratory disease diagnosis: What progress has been made in clinical diagnosis?. Veterinary Clinics: Food Animal Practice, 36(2), 399-423.