氷点下のカナダから、外気温20度のフロリダへ移動してなんだか気持ちが悪いYareyareです。
あ、体調が悪いわけではないのでご安心を。
1月末にフロリダで行われた全米乳房炎協議会へ参加してきました。全日程4日間の学会でしたが、私は2日目から参加。
アメリカ、カナダの北米はもとより、日本をはじめ、チリ、オランダ、イギリス、中国、ベルギー、ドイツ、オーストラリア、スイスなど世界中から総勢400名以上集まったようです。職種もそれぞれで、臨床獣医もいれば、乳汁の細菌培養などの検査技師、製薬会社、ソフトウェア会社、バイオテクノロジー会社の方々などなど。もちろん大学関係の先生方に学生たちも大勢いました。
日ごとにプログラムの趣が変わるので毎日楽しめます。
~1日目(学会のプログラムでは2日目)~
本日のプログラムは、10個あるショートコース(それぞれのテーマごとに少人数にわかれておこなわれるセミナーのようなもの)から午前中に1個、午後に1個選んで参加するもの。
午前中は「乾乳時と臨床型乳房炎時に選択的治療をするための乳汁の早期培養システムについて」(参加者20名ほど)に参加してきました。3本立てのプレゼンの後に、細菌培養された100枚の培地を見ながら、グラム陽性菌か陰性菌か、治療は必要か、等々診断してみよう!というもの。
3本のプレゼンの内容を少しまとめました↓
1.臨床型乳房炎の場合
乳房炎の乳汁を細菌培養すると、グラム陽性菌、グラム陰性菌、発育なし、がだいたい3割ずつみられます。細菌の発育がなくて臨床症状が軽い牛を、治療群(乳房炎軟膏5日間)と無治療群とに分け比較した場合、治癒までの日数、1日あたりの乳量(~90日間)、週ごとのSCC(~90日間)に差はみられなかったとのことでした。*1
上と同様、グラム陰性菌が発育し臨床症状が軽い牛を、治療群(8日間)、治療群(2日間)、無治療群の3群に分けて比較した場合、治癒までの日数、乳量およびSCC(最初の90日間)に差はみられませんでした。ただし、E.coliでは全ての群において97%以上の高い治癒率を示したのに対し、Klebsiellaについては無治療群の治癒率が18%、治療群の治癒率が74%でした。Klebsiellaについてはさらなる研究が必要だけれども、E.coliが原因で牛が重症でなければ軟膏を投与する意味は少ないとの結論でした。*2
なので、グラム陰性菌や細菌の発育がみられない分房よりも、グラム陽性菌の発育がみられた分房を特定して治療することが大切なようです。
2.乾乳時の場合
まず、「乾乳時の選択的治療」とは乾乳時に全頭全分房に軟膏を入れるのではなく、乳房炎の分房にだけ軟膏を入れて乾乳する方法のことで、Selective dry cow therapyと呼びます。アメリカでは80%の酪農家が乾乳期に全頭全分房に軟膏を入れているのに対し、この選択的治療をおこなっている農家さんは10%程度のようです。
ミネソタ大学の博士課程の学生が実際に農場で行なった研究を報告していましたが、
・乾乳牛全頭全分房治療群(軟膏+ティートシーラント)
・培養ー選択的治療群(乾乳2日前に乳汁を採取培養し、細菌の発育がみられたものに軟膏+ティートシーラント、発育がなかったものはティートシーラントのみ)
・アルゴリズムー選択的治療群(泌乳期中にSCC>200000、乾乳前2週間の間に臨床型乳房炎を発症したもの、泌乳期中に2回以上臨床型乳房炎を発症したもの、のいずれかに該当する場合軟膏+ティートシーラント、いずれの条件にも当てはまらない場合ティートシーラントのみ)
の3群を比較した結果、
選択的治療した2群で、全頭治療群と比べて抗生剤の量が50%以上減り、乾乳期の新規感染に差はなく、分娩後の臨床型乳房炎の発生、SCC、乳量にも差はなかったようです。*3
ティートシーラントについてはこちらに少し解説しています↓
最後のプレゼンは、細菌培養するためのきれいな環境、スワブやインキュベーターなどの必要道具、使用する培地、初めは信頼できる別のラボと答え合わせすること、などなど細かな注意点を教えてもらいました。
続く~
*1:Fuenzalida, M. J., & Ruegg, P. L. (2019). Negatively controlled, randomized clinical trial to evaluate use of intramammary ceftiofur for treatment of nonsevere culture-negative clinical mastitis. Journal of dairy science, 102(4), 3321-3338.
*2:Fuenzalida, M. J., & Ruegg, P. L. (2019). Negatively controlled, randomized clinical trial to evaluate intramammary treatment of nonsevere, gram-negative clinical mastitis. Journal of dairy science, 102(6), 5438-5457.
*3:Rowe, S., Godden, S., Royster, E., Timmerman, J., Nydam, D., Vasquez, A., Gorden, P., Lago, A., & Thomas, M. (2020, Jan 29). Selective dry cow therapy on US dairy farms: impact on udder health and antimicrobial use. [PowerPoint slides]. NMC, Orlando, FL.