久しぶりに牛の話題

諸事情により、マスク無しでの交流を避けているYareyareです(コロナにかかったわけではありません)。友達とのカフェ巡りやランチもしばらくは見送ります。あーあ。

カナダではオミクロン株が急増していて、クリスマスは家族で集まる習慣があるので、カナダ人の友達はコロナのテストを受けるための下調べをしていたり、ニュースでは「〇〇の酒屋で無料抗原検査キットを配布中!」と流れたり、海外の水際対策も全員事前にPCR検査を受けるよう元に戻されたり、と大変ですアメリカへの短期旅行などで、出国してから72時間以内に帰国する場合、検査が免除されていました)。

 

あ、いや、今回はコロナの話ではなくて、久しぶりに獣医に関することをちょこっとご紹介。

 

牛のサルモネラ・・・ってご存知でしょうか。私が日本にいた頃はS.Typhimurium やS. Enteritidisをよく聞いた覚えがあるのですが、数年前からカナダではS. Dublinが話題になっています。

典型的な下痢や血便といった症状ではなく、呼吸器症状を示して、敗血症で急死したり生き延びたとしてもキャリアになって他の動物にばらまいてしまう、やっかいな細菌です。S. Dublinは6か月令くらいまでの若齢子牛でよく見られ、多剤耐性なので抗生剤使用の面からしてもやっかいです。

アメリカのデータだと8割がエンロフロキサシン耐性ともいわれています*1 うげー 

 

カナダ・オンタリオ州の子牛のサンプルから採れた薬剤耐性菌の推移を調べるため、とあるラボのデータを14か年分解析してみました。60日令までの子牛だけに絞ったのですが、そこでも2013年以前はゼロだったのに、2014年からS. Dublinの数が徐々に増加。ただ、この研究の目的は年度ごとの薬剤耐性菌の推移をみることだったので、S.Dublinについて深い考察はしていません。日本にいたときには馴染みの無いことでも国をまたぐとガラッと変わってくる、その違いを学ぶのは興味深いです。アメリカでもS.Dublinは問題になっているし、カナダとアメリカ双方で採れたS.Dublinの遺伝子を調べると類似性が高く、ヒトへの影響もあるので看過できません。*2

 

対策としては分娩房や牛舎の衛生管理を徹底し、感染を拡げないこと、感染牛の乳を飲ませないこと、等々。

ワクチンの効果は賛否両論あるようですが、1本おもしろい論文を見つけました *3。 

皮下注射用のサルモネラ生ワクチンを、経口または経鼻投与した場合の効果について書いたものです。Randomized controlled trialで、blindingもされていたので(どの子牛が経口、経鼻、ワクチン無しのグループなのかが検体採取者にわからないようになっている)研究手法としては質の高いものかと思います。どうやらS.Dublinのアウトブレイクがあった農場で行われたものだったようで、たぶん現場では大変な状況になっていて、その問題を解決するために疫学の知識も取り入れておこなわれた、すばらしい研究だなと思いました。

 

あれ?自分の研究について書いていないけど、ま、いっか。

 

*一部訂正しました(12月20日)

*1:Michigan State University, MSU Extension Dairy. 2020. Salmonella Dublin in dairy calves. Accessed on Dec. 19 2021,

https://www.canr.msu.edu/news/salmonella-dublin-in-dairy-calves

*2:Mangat CS, Bekal S, Avery BP, Côté G, Daignault D, Doualla-Bell F, et al. Genomic investigation of the emergence of invasive multidrug-resistant salmonella enterica serovar Dublin in humans and animals in Canada. Antimicrob Agents Chemother. 2019;63: 1–18. doi:10.1128/AAC.00108-19

*3:Cummings KJ, Rodriguez-Rivera LD, Capel MB, Rankin SC, Nydam D V. Short communication: Oral and intranasal administration of a modified-live Salmonella Dublin vaccine in dairy calves: Clinical efficacy and serologic response. J Dairy Sci. 2019;102: 3474–3479. doi:10.3168/jds.2018-14892