41st ADSA Discover conference

に参加してきました。 

www.adsa.org

発表はしていないのですが、おもしろそうだったので先生に泣きついて参加させてもらうことに。どこまでも図々しいYareyareです。

といってもカナダ勢はオンラインでの参加でしたけどね。

 

主要なゲストスピーカーの講演とポスター発表が4日間にわたって開催され、今回のテーマは「子牛の健康管理(子宮から離乳まで)」。乾乳牛の暑熱対策、初乳管理、離乳時の変化など、生理学や遺伝学の見地からアプローチしている発表が多かったように思います。講演はもちろん貴重ですが、もっと面白いのが講師たちのディスカッション。皆集まってああだこうだ言いますが、このディスカッション部分は録画・録音されないので皆さらに言いたい放題。あ、ちがうか。

 

学会に参加する意味っていろいろあると思うけれど、ただ知識を蓄えるためだけじゃないんだよな~と最近よく思う。それこそ生理的なこととか遺伝子のなんたらと言われてもよくわかりません、正直

ただ、答えのわからないことや不確かなことに関してディスカッションが盛り上がることがままあって、それがおもしろいです。単純に見えることでも、一概にこれが正解!といえることはまだまだ少なくて、いろんな話題が出てきます。

ですので、講師がスライドで発表したことよりも、どういった議論がされたのか、について少し書いていきます。

 

1.初乳について

初乳を摂取することで移行免疫が確立されますが、その程度を子牛の血清IgG濃度やtotal proteinを測ることで推定できます。従来は血清IgG<10g/lの子牛を移行免疫不全としていましたが、血清IgGを <10, 10-17, 18-24, ≧25 g/l と4レベルに分けようとの新しい基準が提示されました。この基準は2019年の論文で既に紹介されていたのですが、この学会で改めて新しい方式を普及させようとの狙いがみえたように感じました。

 

2.初乳の大切さ

初乳管理の大切さはもう耳にタコができるくらい聞いているよ、とお思いかもしれません。でも例えば細かなこと→初乳の哺乳量を一概に〇〇リットルとしていいのか、体重の10%とかのほうがいいんじゃないか?とか

ジャージなど品種ごとの体格の差も考えなければないのじゃないか?でもその情報はまだまだ少ない、等々疑問点が再確認されました。

初乳にはIgGだけでなく、成長ホルモンなどいろいろな成分がありますが、乳脂肪成分(オメガ3とか)の大切さとか、初乳給与後の長期的な効果などはまだまだわかっていない模様です。

 

3.離乳の仕方

哺乳量を増やすと増体が良くなって、分娩後の泌乳量も上がると言われて久しいですが、哺乳量を増やせば離乳がスムーズにできないのでは?という課題もまだまだ議論されています。解決策の一つとして、離乳時期を6週目ではなく8週目以降に遅らせること、が挙げられていました。哺乳量だけでなく、スタータの摂取量もその後の発育に影響を与えますが、従来は1日1kg食べていることが離乳の目安ともいわれていましたが、今は2kgとかでもいいんじゃない?とのコメントがありました。そうしたら離乳後の1日平均増体量も1.2とか1.3㎏を維持できそうだよ、とも。

 

4.分娩後すぐに子牛を母牛から引き離すこと

基本的に酪農家では、子牛が生まれればすぐに母牛から離されて別管理されますが、これに対する社会的なプレッシャーが強まっているようです。一般市民や消費者からは「母親からすぐ引き離すなんてひどい!」というネガティブな反応があるみたい。
母牛から引き離さないと、初乳が生後すぐ十分飲めているか確認できないことで後に健康を損ねたり、一緒に長く飼えば飼うほどより絆が深まって、いざ離すときにより強いストレスがかかってしまう、などの研究結果があるので、反論できるのでは?と思っていたのですが、今までの論文結果をまとめてみるとそう簡単にはいかないようです。現にヨーロッパでは(北米よりもヨーロッパのほうが家畜福祉や薬剤使用などに対する動きが進んでいます)母牛と子牛を一緒に飼う方法を取り始めた農家さんもいるようです。
社会的圧力、とでもいうのでしょうか。一般消費者の懸念は研究者たちの間でも重要視され始めてきて、今までやってきたサイエンスだけでなくsocial scienceも取り入れていかないといけない、とか

ヨーロッパで起こっていることは北米でも近々起こるよ、とか

このペースでいくと、いざ親子を一緒に飼うべきかどうかの議論になったときに十分な科学的知見を準備できるのか、とか

でも動物を使った実験はめっちゃ高いしなぁ・・・という意見も出て印象的でした。

 

大変おもしろかったです。興味のある方は、状況が許すのならこういった学会に参加されてみてはいかがでしょう?