疫学とは?

~つづき~

 

疫学の授業ではまず歴史について少し触れました。1800年代中頃のイギリスで起こったコレラとJohn Snowが有名な例として知られています。

コレラ菌で汚染された水をポンプで汲み上げ、生活用水として使ったことでコレラの感染拡大が起こってしまったのですが、当時コレラ菌自体はまだ発見されていませんでした。巷では「悪い空気」がコレラを引き起こしているんだ!との説が有力でしたが、John Snowはコレラの感染がみられた地域を歩き回り、感染者の居住地などを調べた結果、ブロードストリートに設置されたポンプの水が怪しいんとちゃうか、と思ったようです。

「よくわからんけど、このポンプによって汲み上げられる水が問題だと思う!」ということでポンプのハンドルを外し、結果的にコレラの感染拡大を阻止したお話です。

 

「原因がなんなのかはっきりとはわからんけど、たぶんこれが怪しいで。ほなけん、こうしたらええんとちゃう?」っていうところ、けっこう好きです。疫学でもこの部分がミソになっていて、Black-box epidemiology(Black-boxで囲われた中は見えない)と呼ばれます。

 

もちろん原因を突き止めることも非常に大切です。ただこの話を聞いたときになんだか臨床現場のニオイがするなぁ、とふと感じたのです。目の前に病気の動物がいて、こちらの武器は聴診器と体温計だけで(採血もできますが結果が出るまで時間がかかることも)その場で判断して治療しなきゃいけない。原因が確定できないこともあるけれど、病気の治療や予防といったおっきな目的を見据えて決断していくというアプローチ自体は、勇気がいりますがきらいじゃないです。

授業でも「疫学とは、群の健康/疾病に関する要因や分布、頻度を調べてそれを応用する学問である」と習いました。今までは「疫学ってただ机の前で一日中パソコンを使ってカタカタ作業しているだけとちゃうん?」と漠然と感じていましたが、おっとどっこい!実は臨床や現場の大切さを人一倍考えている慎み深い分野なのかもしれません。

 

授業中に聞いたことをもう一つご紹介。

ある日講師の教授が言いました。

「ええかぁ、これだけは覚えておけー。『全てのモデルは間違っとる。でも中には役立つもんもあるんや。』わかったなー。」


全て間違っているって・・・そんな堂々と言ってええんかいな、とハラハラしましたが、調べてみたらこれはイギリスの統計学者(George Box)の名言だそうで。疫学の世界の中では通説なのかもしれません。

 

完璧じゃない部分を認めた上で、使えるところは使う。この感じ、どうでしょう?